月宮の日記

読んだ本の解釈とか手帳とかだらだらと自分の考えを好き勝手語っていくだけのブログ。作品のネタバレも普通にあるので注意。※2024/2/29 更新再開

『絵』からの脱出方法

新年あけましておめでとうございます。
今年も色々と好き勝手書きなぐっていきたいと思います。

ということで新年早々双亡亭考察という名の妄想をしていくことにする。

双亡亭壊すべし』ではラスボスの坂巻泥努は双亡亭に侵入してきた人たちの肖像画を描いている。その絵はただの肖像画ではなく『侵略者』の身体を絵の具にして描いたものであり『侵略者』は人間を『絵』の中に引き込み、トラウマを見せて精神補崩壊させて隙間を作らせ、身体を乗っ取るのだ。序盤ではこの『絵』が強力なトラップとなっており、多くの犠牲者が出た。

そんな中、自力で『絵』から脱出できたのは主人公の凧葉と残花少尉の2人である。しかし脱出の方法はかなり異なっている。
まずは凧葉の場合だ。彼は暴力的な父親のことがトラウマになっていたのだが「とっくに過去形だ」として「父親が怖かった」ことは認めつつもトラウマ攻撃は効かなかった。しかし侵略者の攻撃は一撃では終わらず、二撃目が来た。アル中になった父親を介護していた時の記憶だった。凧葉はその時の父親の目に恐怖を抱いていた。凧葉の身体は賽の目になり、そこへヒル状になった『侵略者』が侵入を試みる…のだが完全に入りこめられる前に身体の隙間は閉じられ、入りかけた『侵略者』は凧葉の目や口から吐き出された。凧葉は既に自身のトラウマを「過去のもの」だとしていたのである。そうして絵から脱出した凧葉は、同じく絵に引き込まれた刀巫覡の紅や鬼離田姉妹を救い出したのだ。彼は彼女たち「自分を赦す」こと「これから自分がどうしたいのか」を問いかけ、トラウマ克服を促した。侵略者に侵入されかけた隙間を閉ざし、凧葉と同じように残った侵略者を吐き出したのだ。また、鬼離田姉妹の次女・雪代を救うときは三女・琴代が召喚したタコハ童子(凧葉が描いた絵を依り代にした式神)を雪代の隙間に入りこませ、侵略者をすべて追い出したりもした。

一方残花少尉の場合は「姉を絞殺する由太郎を目撃した」というトラウマ攻撃を受け、隙間を開けられ、乗っ取られかけた。そんな時、頭の中に響いた『声』により正気に戻った。少尉の頭に浮かんだものは、絵に引き込むときの泥努の『笑顔』だった。「何故嗤った坂巻!」という怒りにより隙間は閉じたが、トラウマを克服したわけではないためか無数の『侵略者』たちを断ち切ることは出来なかった。そうして彼が何をしたのかというと、自分の身体に刺さっている侵略者たちを皮膚や片目ごと引き抜いたのである。彼は絵から脱出したのだが、その代償として右目と全身の皮膚を失うという大怪我を負った(よく生きてたよなあ…)。

と、こうしてみてみると残花少尉の脱出方法があまりにも滅茶苦茶なのだが、実は凧葉たちの脱出方法にも一つ弱点があった。

それは『侵略者』が体内に一滴だけ残ってしまうことである。

実は『侵略者』は身体の乗っ取りに失敗した時、一滴だけ体内に自分の身体を残す。一見何の問題もないように見えるが、これが様々な悪影響を与える。
まず思考の乗っ取りである。前述のとおり、鬼離田姉妹は凧葉に救われて『侵略者』を断ち切り、身体から追い出した。だが彼女達に残された『一滴』が脳を汚染してしまう。他の『破壊者』たちを裏切り、双亡亭に行かせないように嘘の証言を行うなど様々な妨害工作を行ったのだ。同じことがかつて『絵』の中に取り込まれ、脱出した経験がある総理大臣の斯波敦にも及んでいた。彼は絵に取り込まれたことがあるにもかかわらず『絵を見るな』と破壊者たちに一言も忠告しなかったのだ。言うなれば体内の『一滴』により知らず知らずのうちに『侵略者』を利する言動をさせられていたのである。また、紅も泥努から彼の記憶を見せるために『侵略者』の身体を注ぎ込まれており、それによって危うく意識を乗っ取られるところであった。(ちなみに紅の弟・緑朗にも一滴残ったのだがこれはおじいちゃんの水によって失敗した)
凧葉の場合は意識を乗っ取られたわけではなかった。しかし残花少尉の元部下である樺島に刺され重傷を負った時、体内に残された『一滴』は帰黒の霊水による治療を妨害した。帰黒が霊水をかけると傷のところに移動し、かけるのをやめるとすぐに体内のどこかに素早く移動してしまうのだ。これによって『侵略者』を体内から駆除するまで凧葉の治療ができず、彼は生死の境を彷徨った。

一方残花少尉の場合は『侵略者』を汚染された部分ごと引っこ抜いた。少尉も体内に一滴は残ったのか…と思われたのだが、実は帰黒と再突入する際、彼は彼女に「絵を見るな」と忠告していた(第十九巻)。前述の斯波総理が『絵を見るなと言わなかった』ことを考えると少尉の体内には『侵略者』が残っていなかったということになる。突入前に帰黒の霊水を浴びたためとも考えられるが、少尉が浴びた霊水は真水で10倍で希釈したものであり、痛みや出血を止める、言ってみれば応急処置程度のものだった。皮膚ごと『侵略者』を引き抜いたのは無茶ではあるが『体内に侵略者を残さない』ということを考えるとあながち間違った方法でもないのである。(ただこれ普通の人はまず死にますよね)

であれば『絵』から脱出するのに一番いい方法は『体内に侵入される前に隙間を閉じること』なのだろう。大企業のCEOであるバレット・マーグとその妻であり発火能力を持つ妻のジョセフィーン・マーグも娘を失ったトラウマを突かれ、隙間ができてしまったのだが、体内に『侵略者』が侵入する前に正気に戻ったことで『侵略者』が侵入することは無かった。しかしこれは老人友達科学者であるアウグストの喝があったからこそであり、彼がいなければ二人とも『侵略者』の侵入を許してしまっただろう。

だがこの『侵入される前に隙間を閉じる』ことをたった一人でやってのけた人物がいる。それが今作のラスボス、坂巻泥努である。泥努の『トラウマ』は頼まれたとはいえ愛する姉・しのぶを殺してしまったことなのだが、同時にそれは愛する姉を詠座から連れ戻すことができた『美しい思い出』であり、彼はその記憶に触れられたことに激怒し、逆に『侵略者』を支配し返してしまったのだ。一体その精神力はどこから来るのか。生粋のものなのか、或いは精神崩壊したことで無敵の人みたいな『精神力』を身につけたのか。
ちなみに『侵略者』代表のしのは「あの男はどんな過去にも恐怖せぬ!」(第八巻)と言っていたが、泥努自身に恐怖がないわけではない。ただ泥努が恐れていたのは『辛い過去』ではなく『画業を成せず、最高の絵が描けないまま一人で老いていく』という『未来』だったのだ。しかしそれも友達が来てくれるなら『何も怖くない』という…ちょっと妄想になってしまうが90年彼が『絵』を描き続けられた理由はもしかしたら『友達が来てくれる』と信じていたからかもしれない。

と長々と書いたが、とりあえず残花少尉の真似だけは絶対してはいけないということで記事を〆ようと思う(普通は無理です)。