月宮の日記

読んだ本の解釈とか手帳とかだらだらと自分の考えを好き勝手語っていくだけのブログ。作品のネタバレも普通にあるので注意。※2024/2/29 更新再開

昭和7年の双亡亭(※最終巻ネタバレあり)

坂巻泥努は双亡亭とともに消滅した。
しかし別次元では幼い坂巻由太郎は凧葉によって救われた。

文句がつけどころのなくきれいに終わっているのだが、だからこそ一つ疑問点というか気になるところがある。

それは「残花少尉と帰黒が帰った時代の双亡亭はどうなったのか?」である。

双亡亭の建設は、泥努が海外旅行から帰った後、10年の歳月を経て昭和10年に母屋が完成している。残花少尉が双亡亭に部下と一緒に踏み込んだのは昭和7年であり、そこから全身の皮膚を無くした状態で脱出し、帰黒の霊水で傷を癒し、彼女を連れて双亡亭に再度踏み込んだ。そこで泥努によってどういうわけか繋がれた昭和7年から現代を結ぶ『時の廊下』に通ってしまい、タコハたちがいる90年後の双亡亭にやってきてしまったのだ。そして2人は『時の廊下』をつたって再び昭和7年の世へと帰った。

では、まだ建設途中だった昭和7年の双亡亭はどうなったのか?

普通は過去に戻れば過去に存在していたものも当然あるはずである。だが双亡亭はどうなのだろうか。作中でもさんざん言われているが双亡亭の内部は時間の流れが外部と異なり、異なる時代が繋がっている。ということは現代の双亡亭が消滅→過去の双亡亭ももれなく消滅ということもあり得るだろう。
もっと言えばタコハと青一は大正6年、由太郎が泥努になるきっかけとなった姉・しのぶの自殺幇助が起きる前に向った。タコハはそこで帰黒の霊水によってしのぶの病を治し、しのぶを愛した絵描きであり凧葉の祖先である月橋詠座にケジメをつけさせ、由太郎とともに絵を描いた。一方青一は後に双亡亭が建つことになる沼へ行き、侵略者たちが潜んでいる沼を徹底的に掘り返した。この時点で双亡亭も坂巻泥努も未来に存在しなくなる世界が生まれ、残花少尉と帰黒が帰ってきた昭和7年には双亡亭も泥努もいなくなったということも考えられる。現に単行本で書き下ろされた帰還直後の二人のやり取りを見ると、『昭和7年の双亡亭』の存在を気にしている様子はない。

だが、やはり昭和7年の双亡亭も消えたとは明記されていない。おまけ漫画で明からされると思いきやそんなことはなったぜ。
ということはやはり昭和7年の双亡亭は健在であり、泥努はまだそこにいる可能性があるのだ。この時は応吉も仕え始めたばかりであるし、双亡亭自体も母屋の中心しかない。残花少尉は泥努が笑った理由を既に知っており、90年後の泥土とも和解を遂げた。帰黒も子腐の呪いが解け、自衛隊の艦砲射撃を一人で受け止めるほどの強力な力を持っている。
ということは、泥努を残花少尉が説得し、しのたちを帰黒が倒すことで、二人で『昭和7年時点の双亡亭』を攻略することは可能ではないか?と思うのだ。

昭和7年時点ではタコハはいないので難しいのでは、とも思うが、しかしタコハの他に泥努を説得できる存在は残花少尉ではないかと思う。
というのも泥努は長い間『絵』を完成させたら侵略者の門を開くつもりでいたし、自分の絵を認めない世界など滅びても構わないというスタンスであった。帰黒の霊水を使ってタコハが絵を塗りつぶすか、泥努に門を開かないように『説得』しなければならなかったのだ。おまけに泥努が死んでしまうと門が開きっぱなしになり、閉じることは二度とできなくなる。つまり世界の命運の鍵を彼が握っていたのだ。

泥努は一緒に竜宮城へ行ってくれる残花少尉を待ち続けていた。残花少尉はタコハの交通整理でそれを思い出し『双亡亭で何時迄も共に生きる』と宣言した。その代りに彼が泥努に取り付けた約束は『侵略者を一匹たりとも呼びこまない』ことであった。
繰り返すが泥努は『絵』が完成したら門を開き、侵略者を呼びこむつもりでいた。世界を滅ぼすことにためらいなどなかった。ところが驚くべきことに、泥努はその約束をあっさりと了承したのである。結局この約束は『月橋詠座』のせいで御破算になってしまうのだが、それでも一度は泥努に『門を開かせない』ように説得できたのである。

ということで『双亡亭』で様々な経験をし、泥努とも和解をした残花少尉ならば、昭和7年時点の泥努を説得できる可能性は十分にある。おそらくこの時点の泥努は残花少尉のことを待ちづつけているはずなので、ちょっと行ってあげてほしいと個人的には思う。でもってよっちゃんや応吉君も交えて昭和組みんなで帰黒お手製ジンギスカンを食ってほしい。

…という個人的な妄想というか願望があるのだが、無いだろうなあ…。